拍手お礼文集1






僕は昔から嘘を吐く人間だった。(否、人間では無い、そんなものに生れついた記憶は無い)

例えば、これはとある狗との会話の断片。
「ねぇ狗君?君僕に惚れてるって本当かい?」
「さぁ」
「あーあ。真面目に答えてくれたら僕も惚れてあげたろうに」
これはまぁ、可愛いものだ。差し詰めロリータと云う年齢を超す手前の少女のように。

例えば、これはとある吸血鬼殿との会話。
「スマイル」
「うん?」
「お前昨日、居なかったろう。何処へ行っていた?」
「え?居たでしょう、君の寝台の中に。更年期障害じゃあ無いのかい」
これは何時も通り交わされる会話。嘘と云う名の愛の確認作業。(そして無論意味なんて成しはしない!
真っ赤な嘘ならぬ真っ黒な嘘。昨日僕が居たのは、幽霊屋敷。カーテンに締め切られ、た、嗚呼

然し、流石の僕とて、この世界の造物主であらせられるところの神様だけは、金輪際嘘など吐いたことは無い。
「ねぇ神様。僕実は君を愛してるんだ」
「へぇ、そうなんだ。何番目位?」
「ユーリの次位かしら」
「ユーリの次はジズだろ」
「嗚呼、じゃあジズの次かな」
「どうでもいいけどよー俺はお前を愛したことなんて無いぜ?」
「良いよ、片思いで済ますから。一人で毎晩、君のこと考えて抜くから」
「ユーリに抜かれる、の間違いだろ」
「あ、そうかも」

否、吐いたことが無い、のでは無い。吐けたことが、無いのだ。
彼は総て、お見通し。
僕が狗を嫌っているのも、僕が昨日紳士に抱かれたことも、僕が彼のことを思って達したこと等無いことも。総て。
何故なら、彼は僕よりずっと、嘘吐きだから、だ。
僕が嘘を吐くよりもっと上手に、彼は狡猾に僕を騙す。

「ようスマイル。ユーリから伝言」
「はぁ。なぁに?」
「別れよう、だって」
「伝言有難う。鳥渡首吊ってくるね」
「うん。いってらっしゃい」

あ、あ
道化師が二人



(因みに此れ、メルフォよりお題戴いて書いた、つもりだったんですが見事に題からそれている。ぁぁぁ
「神に愛され無かった子」、と云う事で、戴いていたんですが。/…
いつものことだ、と甘んじてやって下さると幸、い。)















僕の最愛のベースの弦が切れた。
然しそれはぷちん、なんて可愛い音では無くて、
びぃぃぃん、と、酷く不快な音をたてて、そいつは僕の指先を切った。
運悪くも、丁度ライブの最中であった。
そして、いつもならそそくさと他のベースに替えるのだけれど、今日はそう云う気分では無かった。

舞台の上、彼はスタンドから外したマイクに、有りっ丈の声を込めている。
舞台の下、彼女等は崇めるように手を掲げ、叫び、跳び、頭を振る。まるで新興宗教だ。と思う。
切れた弦をどうしようか、と悩みつつ音を誤魔化して弾く僕をいぶかしんだのだろう。
彼はさり気無く僕に歩み寄り(彼女等は無論只のパフォーマンスだと思ったのだろう)、目で尋ねた。どうした、と。
僕は、さして取り繕う理由も無かったので、切れた弦を片目で見やった。
すると彼は何を思ったのか、徐に僕の顎を捉えて(ここでも矢張り、彼女等は絡みと云う名のパフォーマンスだと信じていた)
口付けたのだ。舞台の間中、で。
下まで入れ、て。

(何を考えて、変態!)

非難の眼で罵倒する僕を嘲笑って、彼は再び歌の世界に戻る。間奏が終わったのだ。
そして僕は気が付く。
口の中に残された唾液に包まれた、弦の束、を。

(汚い…)

思いつつも背に腹は代えられぬ、と慣れた手つきで弦を代えて、僕は伴奏に戻る。
彼女等は気付いただろうか、と思案しながら。




ある日家に帰ると、ファンレターが届いていた。

≪デキてるんですか?≫

「…」
これは僕の沈黙。
「……」
これは彼の沈黙。
「………」
これは、演奏に集中していて気がつかなかった哀れな狗の沈黙。


所詮皆、脳髄まで腐っているのだ、ということ。

(そして何時からギターの絃は吸血鬼の口内から生産されるようになったのだろう?)









(これまた、お題から外れ過ぎている。一つ目より酷い。
戴いたのは「響かない音」。そしてそこから最初に連想されたのがギターで、
じゃあギターの話で良いか、と書き始めたら、原型が無い。おかしいですね。
どうやら私にとってお題とは、あくまで思考を始めるきっかけでしか、無いらしい。
でもお題提供有難う御座いま、す!
そしてきっかけにしかならないかも知れないけど拍手お題募集中、です。他力本願!)