【それでも】

音がしないようそっと開けた扉。
日常の眠りに使われる彼の部屋は、用途がわからなかったり明らかに壊れてその役目を果たさなかったりする様なガラクタ達がそこら中に転がっている。
本人はガラクタと認めないけれどガラクタ収集がユーリの趣味だ。
とても無駄で、悪趣味だと思う。
そんなガラクタまみれの部屋で唯一といってよいほど実用的なベッドに僕は足音を立てることなく近づいた。
途中、いくつか床に落ちていたガラクタを蹴ったけれど。
僕はそんな物達には目もくれず一気にベッドに飛び乗り、布団をはぐ。
「……!?」
元々浅い眠りから目覚めたユーリが目を見開いた。
そんなユーリを無視して、ユーリの両腕を頭上で掴み上げる。
「何だ」
されるがままのユーリが口を開いた。
「わざわざきかなくたっていいじゃない。わかってるんでしょ?」
僕はそういってユーリの両腕を片手で押さえ、もう一方の手でそっとその腕を撫でながら口で彼の寝巻きのボタンをはずしていく。
ユーリは不愉快そうに呟いた。
「……そんな気分じゃない」
それをあっさりと無視して、ボタンを外し終える。
あらわになった腹部。
腕を離し、少しだけズボンを下げ見えた骨盤に沿うよう舌を這わせればユーリの身体が小さく跳ねた。
「嘘つき」
クスリと笑えば、嫌そうに歪められる顔。
そして諦めたように漏らされたため息に更に笑みを深め、今度は下着ごと一気にズボンを下ろした。
そしてそこに手を伸ばそうとして、その手を掴まれる。
次の瞬間、目に見える光景がガラリと変わった。
天井と、壁に備えられた棚と、そこに並ぶガラクタ達。
いつの間にか僕とユーリの位置が入れ替わっていた。
「また眠れないのか」
それは疑問系ではなく、断定。
ユーリは静かにそう言いながらまるで幼子の服を脱がすように優しく僕の服を脱がし始めた。
その優しさに、縋りたくなる。
上半身を少しだけ浮かしてユーリの首に腕を回せば、ユーリの息が何にも邪魔されず僕の肩に触れた。
「腰」
その一言に腰を浮かせれば、僕の身に纏っていた衣服が全て取り攫われた。
そしてユーリは片手を僕とシーツの間に滑り込ませ、僕の背を撫でた。
背骨を辿られ、肩甲骨の縁をなぞられ、その微妙な感覚に身を捩る。
さっきと逆だな、とユーリが笑った。
そんなユーリを思わず僕は睨んだけれど、楽しそうに僕を一瞥するだけで。
ユーリは僕の背に回したその手は止めず、反対の腕を伸ばしてさっき僕が剥いだ布団を掴みそれを僕と自身の上にかぶせた。
夜の闇に晒されていた二つの身体が、お互いの熱の篭る空間に包まれる。
もう生きている者とは呼べないはずのガラクタのこの身には、温度など大して関係はないはずなのに。
「眠れないんだ」
気づけば、その暖かさに思わず呟きを漏らしていた。
わかっていると笑ったユーリが布団から離した手をペロリと舐める。
その手が布団に潜り、僕の体内へスルリと入り込んできた。
そしてその手がこの背を撫でる対の存在と同じように、まるで幼子をあやすように動くから。
僕は自分の存在を勘違いしないよう、ユーリの首に回した腕に力を込めた。
銀色の髪を通した向こう側。
棚の上に乱雑に置かれたガラクタ達が目に入る。
ああきっと。
違えぬよう、自分に言い聞かせた。
生きているといえない僕。
一人では眠ることもできない僕。
どこか壊れた、僕。
それを知っていながらもしかしたら愛されているのではなどと勘違いしてしまわぬよう、僕は自身に言い聞かせた。
僕も彼の悪趣味で集められたガラクタのひとつ、なのだと。
入り口が十分にほぐれ、ユーリの熱が僕の中に入ってくるのを感じた。
思わず弓なりになった僕の背が、ユーリの手によってしっかりと支えられる。
それにまた勘違いしそうになって僕はぎゅっと目を閉じた。
わかっている。
わかっているのに。
僕の胸に浮かぶ、苦い感情。
その思いを読み取られぬよう僕はそれから目を一度も開けぬまま、体内にある自分とは別の熱を感じながら闇に意識を落とした。

わかっているのに、

それでも。