甦り
目が覚めたら、隣で透明人間が死んでいた。
「―スマイル・・・?」
驚きの余り、無意識に名を呼ぶが、
当然の如く死してありとあらゆる機能を停止させている彼に、
其の呼び声が届くことはない。
「・・・・」
こうも唐突に逝かれるとは思ってもいなかった為に、
私は途方に暮れて黙り込む他無かった。
そもそも死しているのかすら判らない。
だがしかし、数時間前と何ら変わらぬ其の華奢な体躯からは
死の匂いが厭でも伝わって来る。
「・・・私に無断で死んでいいと思っているのか貴様は」
軋、とベッドのスプリングが呻いた。
手を伸ばして彼の二の腕を掴む。
細い。
此の侭引っ張ったら折れてしまう程に。
本当に折れるだろうか。
まぁいい、折れたら治すまでだ。
ぐいと、蒼い矮躯を此方側へ抱き込むように引く。
力の全く入っていない其れは、人形のように
或いは軟体動物のように、くたりと私の腕の中に倒れ込んだ。
(軟らかいな・・・・)
悠長にもそんなことを感じながら、彼の四肢を、掻き抱いた。
細く綺麗な蒼髪が、丁度私の首の側にあって、少しくすぐったい。
露出した肩に触れれば、冷たい死の温度が皮膚を通して伝わってくる。
本当に、死してしまったのだろうか。
だとしたら、私はどうすればいいのだろうか。
弔って
嘆いて
悼んで
慈しんで
それから
それから
それから?
スマイルが私の側から居なくなったのに
私には≪それから≫なんてものがあるのだろうか?
私の全てはスマイルなのに
私は未だ存在し続けなければならないのか?
答えは、否、だ。
「こういうのを、人は跡追い心中と、云うのだろうか」
お前の為ならば、私は死を迎え入れられる。
お前の居ない世界に、私は居たくないし、居られない。
「・・・・・・・死、」
彼は何故、死んだのだろうか。
何故、私をおいて、逝ったのだろうか。
そんな酷なことを、したのだろうか。
(実は嫌われてた、とか)
厭な話だ。
そして有り得る話だ。
「・・・・・・・・」
何を思ったのか。
或いは何も思っていなかったのか。
其の蒼き骸を、きつく、抱き締めた。
今までにない程に、本当に壊れそうな程に、抱き締めた。
其の腕に籠めたのは、謝罪だったのか、違うものだったのか。
それすら分からないほどに、抱き締めた。
抱き締めて
抱き締めて
抱き締めた。
もしかしたら、泣いていたのかも知れない。
涙など当の昔に尽きた瞳で。
彼のために
彼のために
彼のためだけに。
だって私は、彼だけのために生きてきたのだから。
「・・・スマイル、」
其の先に続く言葉は、何だったのだろう。
何を、云おうとしたのだろう。
分からない。
最早如何でもいい。
そんなことは、放っておける。
何故ならば、
「ユーリ、放してよ。苦しいったらありゃしない」
fin.