無題





誰かにタオルケットを掛けられた気配がして、
僕は目を覚ました。
しかしこの場合において、僕の意識はかなり薄んでいたので
より正確に表すならば、僅かに瞼を開けただけである。

「おや、起こしてしまいましたか」

其のミリ単位の動きに何故か気づいた人影が、
僕に向かって口元だけで微笑む。
けれど、其の口も、純白の半仮面によって
全ては見えない。

「お眠りなさい」

まるで母親のような仕草で、双瞼を手の平で覆われる。

「少し、立ち寄っただけですから」
「・・・・・・・・・・・なら、もう少し居てよ」

ぼやけた意識の儘、枕元の眼帯をつけようと手を伸ばして、止める。
・・・彼にはこんなもの、不要だろう。

「今日は、独りなんだ。誰も居ないんだよ。
紳士は、闇夜の寝室に此の蒼い寂しがり屋を
放置いていく気かい?」

態と意地悪く云うと、彼は其れに何一つ厭な顔せず
小さく微笑う。

「滅相も無い。悦んで宵までお供させて戴きましょう」
「有難う。流石紳士だねぇ」
「お褒めの言葉を頂戴致しまして
誠に有難き事と存じます」

彼は大袈裟戯けた様に、しかし流れるような物腰で
未だに寝具に横になった儘の僕に、深くお辞儀をした。
其れが余りに見事過ぎた所為で、僕の意識は
笑いと共に起床を余儀無くされる。

「あはっワインは如何?幽霊紳士」
「お言葉に甘えて、蒼き透明人間」

僕は笑って、
彼は微笑った。







fin.