退廃色ショウ





色取り取りに彩色された、遊具
動物や植物の形を模した其れ達
聳え立つは可愛らしい、然し細かな装飾のされた塔
其れを中心として並び聳える、巨大な電動の玩具達
廻り廻りて、上り下りて、走り止まりては、音を立てる
青々と茂る木々が、其れ等全てを取り巻き、引き立てる
聞こえていたのは、子供達のはしゃぐ声
見えていたのは、大人達の温かい顔


(なんて、ね)


蔽い茂り続ける木々蔦々は、今や不動の巨人と化した遊具をも侵食
蔦が絡みつく鉄製の機械は、酸化し鈍く光る錆の塊に成り果て
朽ちて中身も失ったモノ達は足元を崩し膝をついている
中心に立って見下ろす塔も、最早只の電柱、独活の大木
聞こえているのは、喚きたてる鴉達の悲鳴
見えているのは、夢の幻影跡地

「物好きだな」
「如何して?」
「デートに遊園地に行こうと云ってこのような場所に来る奴が有ろうか」
「ここに在るじゃあ無い」
「だから物好きだ、と云っているのだ」

(僕は、此処がとても気に入っているのだけれど
だから、君を連れて来たのだけれど)

「ユーリは嫌い?こういう所」
「嫌い、では無いが」
「良かった」

僕は、彼の前でだけ見せる、笑顔を咲かせる。
何故なら、彼は、僕がそれを彼の前でだけ咲かせることを、知っているからだ。
知っているから、僕が其れを咲かせると、彼は酷く満足する。

「ねぇ、遊ぼうよ」
「如何やって」
「ん、じゃあ、隠れん坊」
「…追う側が私で、捕まえたならば食して良い、と云う条件下でか」

絶句、と迄はいかずとも、一瞬言葉を失った僕。

(末期だ)

然しさりとて、これしきの発言によって折角孤高の吸血鬼様と鬼ごっこをする、なんて
素敵過ぎる夢遊戯を棒に振る訳にもいかないので、僕はにっこりと例の笑みを再度浮かべ

「良いよ。じゃあ、十数えて、ね。隠れるから」
「十で良いのか」
「だって、透明だもの。それ位のハンデ、必要でしょう?」
「ご尤もで」

笑みを張り付けたまま(否、本当に嬉しくて、楽しんでいるからこそ貼り付けることが出来得る此の笑み)、
僕は躯を透かす。ユーリは透けて行く僕を見ている。
否、もしかしたら、透ける僕の躯の、その向こう側の夢の国を見ているのかも知れない。
躯を介した向こう側の王国の、在りし日の遊園の地を夢見ているのかも知れない。きっとそうだろう。

「…では、数えようか」

一応僕もきちんと見ていてくれたのだろう。完全に透け終えたところで、ユーリは最初の数字を唱えた。
僕は、誰も居ない遊園地を、細すぎる脚で以て、駈け出した。
行く先は、もう決めていた。
どうせ、いつか見つけられて、捕まるのだ。ならば、喰われても構わぬ場所に、居るべきだろう。
(僕は、彼の発言を最初から見抜いていたのだ。其れはもう一種のパターンであるから)





見え得る世界は、只、退廃
時間を止められ、朽ちることしか赦されぬ、鉄塊、巨人
死んだ無機物に囲まれて、僕等、は、





(此れは最早、或る種の破戒、禁忌だ)

僕はそう思案し乍、ブーツの音響かせぬよう注意を払い、鉄の梯子に足を掛ける。
不可視になったコートの裾を風が撫ぜ行く。
ふと、静止した空間で、然し流れゆく風に少しの違和感を覚えた。
何故ならば、閉鎖空間とも云える此の地で、自由運動を許可されたのは僕等だけだからだ。

(死んだ筈のこの地で、僕等は童の如くかくれんぼをしている)

恐らく其れは、墓地で鬼ごっこをするのと、酷似していることなのだろう。
そして其処にあるのは、スリル。

「でも、これから味わうのは其れ以上のスリルなんだよ。ユーリ」

今頃、気配と長年の勘だけで僕を探し回っているであろう彼に、話しかける。
流石の彼とて、ものの数分で、こんな高い塔の上の透明人間、見つけられる訳が無い。
眉間に皺を寄せて、真紅の羽で以て空を蹴る彼を脳裏に描いては、独りでひひひ、と、にやけた。
一際強い風が、コートと、少し解れた包帯の端をはためかせる。
カツン、と硬い音を立てて最後の梯子を踏んだ。

僕が登ったのは、巨大な観覧車だった。
今にも風に煽られ、横倒しされてしまいそうな。
そしてその天辺迄登った僕は、天辺に位置する、ゴンドラに乗り移った。
扉は、無論、と云おうか、金具が朽ちたのであろう、見下ろせば地に無数に落ちていた。

(まるで、堕とされたイカロスの羽根みたいだ)

曇った空より数倍も蒼い蒼色が、僕の肌に帰って来た。
色彩を取り戻す、というよりは、色のベールを被る感覚。

「我ながら、気色の悪い肌してるよねェ…」
若干上空に在った為にか、さして汚れていない座席に腰掛け、一息付く。
久々の重労働故に、少し息が切れていた。
そこまで天高く聳える、と云う程の高さでも無かったので、酸素濃度が薄いと云う訳でも無いのが幸いである。

腰かけた拍子に、ゴンドラが揺れた。
当然だろう、片側だけに重みが掛っているのだから。

(然し、座った時とタイミングが些かずれてい、る)

思った時は、既に遅し、か。

「狡いよ、ユーリ」

羽ばたく、紅き羽、が。

「只の脚でこんなとこまで登ろうとするお前が悪かろう」
「空中散歩出来る人種はごく少数だよ」

云いつつ、空中散歩はおろか壁や次元すら無視する幽霊と神様を想起していた。

(嗚呼もう、僕の周りは人外ばかりだ)

「にしても僕、ちゃんと透けていたと思うのだけれど」
「莫迦と煙は高い所が好き、と云うだろう」
「君は、僕が莫迦だと云いたいの?」
「両方だろう。煙の如く、消え入るお前は」
「煙、ねェ…」

ギィ
風と時間に侵された鉄塊が悲鳴を上げた。
僕は不敵に笑う。

「果たして君は、如何やって煙の僕を捕まえるのかな」

総ては、彼を誘う為。
そして彼は其れを知った上で、承知の上で、堕ちて来る。

ギイ
揺れるゴンドラ。或いは揺り籠。寝台。
(モノの名前なんて、何時でもそんなものだ。時と場合と用途で、姿を変化させる。定まらぬ悲しきモノ)

どさ、り
背に残る衝撃の余韻。或いは予感。次の段階へ、の。
(より正しく述べるならば、予感と云うよりは確信)

(そう、僕は確信犯なのだ)

「スマイル」
「なぁに」
「此れは?」

彼の言葉が指しているのは恐らく、僕のコートの下に身に着けているモノのことであろう。
何時もならばぐるぐる巻きにされた包帯の其れは、然し

「ベビードールだね」
「そしてガーターだな」
「何か問題でもお有りで?」
「…寒くないのか?」
「寒いに決まってるでしょう」

(だから、ねェ)

「暖め、て」
「…云わずもがな」

ゴンドラが揺れる。揺り籠が揺れる。寝台が軋む。
さて、風に煽られて揺り籠が落ちたならば、中の赤子は如何なるだろう?
(それこそ、云わずもが、な)









(曖、何と云う、スリル。地に落ちるか、快楽に堕ちるか、はたまた双方か。
然し上手く落ちれば(堕ちれば)腹上死、なんて)








「さァ、見世物サーカスを、始めようか」
















Junk-boxの稀楼様に、相互リンク祝いとして押し付け。(うわぁ
エロでもグロでもどんとこい(?)と云うお話でしたが、其れは流石に自重…出来切れて無、い(ぁぁぁ
そして書き始めたの若干前なので当初のオチを綺麗に忘却してしまったり(まぁ此れは何時もだ、が)、
挙句何だか続く感滲んでいる、と云う。
続編の気配出た時点で書き直そうかとも思ったのですが、如何せんお待たせしていますし。うん。
言い訳がましいのも、何時もですね。(じゅす、い
というか本当にユリスマで良かったのかしら向こう宅はスマユリさん…
せめてユリスマユリにしてみようかとも思ったのですが其れは早期に諦めました、なんて。
本当こんな管理人のサイトにリンク貼って下さって有難う御座います。
感謝の念と期待の眼差しを籠めまして、此れにて失礼。
お納め下されば幸い…!(や、こんなの厭です、って突き返して下さっても構いません/ひぃ)