首絞



「ん、ぁ」

月光に照らされた、白過ぎる四肢を投げ出して、目前の背中に黒に塗られた爪を食い込ませる。
その痛みに反応したのだろう、食い込められた方も、呻き声を漏らす。

「あは、ァ、痛いの好きなの?」
「金には負けるよ」
「なぁに、それ、私がマゾだって云いたいのかい?」
「違うの?」
「違うよ!」
「へぇ、じゃあこれ、悦く無い訳?」

云って、中に込める力を、更に強く、深くする。
途端今迄饒舌に喋っていた彼は、薄い胸板を反らせ、金糸を漆黒のシーツに散らす。
黄昏色の華の様な其れが、甘い悲鳴が、力を込めた本人の性欲を更に煽る。
云わば、快楽の悪循環。

「ほぅら、悦いんじゃあないの」
「くふ、ぁ…莫迦ァ…」
「素直に啼けば?」
「ヤダ、よ…っん」

それでも余程悦いのだろう、喰い込ませた爪の先に、
圧力に負けて裂けた皮膚から溢れた血液が付着している。

「そう、虐めて欲しい訳、ね」
「違……っぅ」
「マゾヒスト」

耳朶を軽く噛まれただけで言葉を詰まらせるそれに、にっこりと微笑む、それは恰も

「サディスト」
「うん、知ってる」
「羽、切り落としてやろうかしら」
「金じゃあないんだから、悦べないよ、それは」

何か云おうとした金の方を遮る様に、前触れも無く強く、腰を打ちつけた。
悲鳴とも嬌声ともつかぬ声が、石造りの壁を跳ね返って、聴覚にまで快楽を感じさせる。

「っ、は…」
「ぁ、んぁ、あ…ね、気持ち、悦い…?中、」
「煩い、なァ…何、感想聞きたい訳?」
「っ、だって、気になるじゃあない」
「…金こそ、良く喋って、余裕みたいだけど。如何なの」

返事の代わりに与えられたのは、啄ばむ様な口付け。
これは、もっと深いそれを誘う為のもの。
それは知ってか知らずか、否、知っているに決まっている、が、
返したのは金の方が期待したそれでは、無かった。

「くぅ、ぁ…」
「こっちの方が、悦いんでしょう?」

仰け反った白い咽喉に絡み付く、細く整った指が、気管と血管を、同時に圧迫した。
脳に直結する血管が堰き止められ、急速に酸素を失われ、眩暈、が

「っ、…く、と…ぉ」
「うん?なぁに、何か云った?」

余裕綽々、と云った顔で微笑み返すが、彼の下腹の中心もまた、急激な締め付けに喘いでいた。
苦しさと、矢張りマゾヒストなのだろうか、眩暈と共に湧き上がる快楽に、一気に中が収縮したのだ。

「ね、ぇ、気持ち良い?金鳥?」
「っく…ぅ……っ」

気管も塞がれては当然、返答も出来る訳が無い。
涙目の訴えを受け取ったのか否か、細指が咽喉にかける力を弛めた。
瞬間。

「くふ、ぅ…んん、っ」

酸素を与えてやるまいと、間髪入れずに深く口腔を侵す。
漸くの解放に一瞬の安堵を得た咽喉に容赦無く注がれる唾液は
当然、コントロールを失った気管支に混入する。

「っぇ、ぐぅ…ん、ゃ」
「………ぁは、少し、やりすぎたかな。ごめんね」

案外あっさりと唇を解放したのは恐らく、下の締め付けに限界が近かったからだろう。
発汗した額に張り付いた鴉色の前髪を掻き上げて、余裕の薄れた微笑みで問う。
咳き込む金の耳朶に舌を差し入れ、囁く、同じ声、が。

「動いて、良い?」

(…何で毎回、訊くんだか)

酸欠で朦朧とする脳内で唱える金の方を余所に、矢張りそれは只の通過儀礼の様なものだったのだろう、
返事を待つ気等微塵も見せず、一気に奥まで捩じ込んだ。

「っく、ぁあ、っ…う、あ、あ、」

痛みなんて、感じない。
快楽しか感じない。
ぞくり、下から競り上がる様に天頂まで走る、それ、は

「っは、い、ぃ…んっ」
「そう、良かった。痛いの好きだもの、ね」

満面の笑みを湛えて、自分と全く同様に痩せた、滑らかなそこに腰を打ち付ける。容赦無く。

「もっと欲しい?」
「う、んっ…頂戴、っぁ、くぅ」
「あ、は。そうがっつかないで、よ。淫乱」
「っふ、ん…っそう焦らさないでよ、ね。鬼畜外道…っ」

皮膚と皮膚、骨と骨が奏でる、衝突音。
然し乾いたそれに重なるのは、粘膜と粘液の、ぐちゃり。
自分の下で啼く、自分と生き写し(当然と云えば当然)の白い四肢に、煽られて。
自分の上で囁く、自分と生き写し(なのに何故上下があろう)の黒い獅子に、翻弄されて。

「っは、ぁ…あ、あ、…っも、」
「…もう?」
「っん、あ、ぁ…駄目、玉兎…ぉ…」
「早いんだけ、ど」
「嘘、君も、キてる癖に…ぃ」
「…………」

何故、とは問わない。解っているから。
腰を高く上げて、より深く、強く、最奥、迄
突かれた(突いた)







どくり

注がれたのは、白濁
吐き出したのは、白濁











「今日早くなかった?」
「そう?」
「うん。月の所為かな」
「月の所為だね」
「あはっ」
「あ、は」






end...less