紅葉
ざぁ・・・・・と、若干強い風が、木々に茂る暖色系の葉を震わせた。
心地よく耳に届いたその音に顔を上げれば、
枝から離れた葉が視界を覆う。
「綺麗、ですね」
隣で、恐らく自分と同じ行動をしていたであろうジズが呟く。
彼の云う通り、其れは綺麗としか云いようの無い光景だった。
紅や朱や黄の葉が、一斉に舞い落ちる様は
見る人の心にまで浸透してゆく。
そして僕もまた、その落ち葉に魅せられていた。
「うん、綺麗だ」
ひらひら × ∞
一体何に例えることができようか。
と、見とれていて、気がついた。
「ね、ジズ」
「何ですか?」
「あの紅い、人の手みたいな葉、あるでしょう?」
「あぁ、楓ですね」
「うん。あれさ、落ちてくるとき、よく見ててごらん」
「・・・?」
ジズの目線が上方の楓に移る。
さて、彼は気がつくだろうか。
「どんな、感じ?」
「どんなと云われましても、何と云うか、
くるくる、とでも云いますか」
「そう、くるくる」
くるくるくるくる。廻る楓。
「じゃぁさ、何に似てる?」
「・・・・・貴方は、如何思っているのですか?」
問いに問いで返され、思わず苦笑を漏らす。
そうきたか、と。
「うん。あのね、風車に、似てるかなって思って」
「かざぐるま・・・?」
「そう。手に持って、くるくる回すヤツ」
「あぁ・・・成る程」
もう一度顔を上げて、ようやく合点が言ったように同意。
「貴方は時々、思いもしないことを云い出しますね」
「そうかなぁ」
「えぇ、よく驚かされます」
果たして此れは褒められているのだろうか。
「風車、ですね。本当に」
くるくるくるくるくるくる。
いつまでも、永久に続きそうに思えるほど、
無数の葉は舞い降りてくる。
彼は落葉に見とれる。
僕も落葉に見とれる、
ふりをして、彼の横顔に見とれる。
なんて、惚気。
「ウォーカー」
視線に気付いてか気付かずか、
彼が僕に呼びかける。
「ん、そろそろ行く?」
見上げていた所為でずれたマフラーを
直してあげながら問う。
「えぇ」
くるくる。
秋の風車。