ざぁざぁ

ざぁざぁ


「止みそうに無いなぁ。」


ざぁざぁ


「今日は散歩止めとく?」
「否、行きましょう。」

使い終わったティーセットをキッチンへ運ぶ。

「傘、一つ余分に出して下さい。」







一つは僕の。
一つはジズの。
もう一つは閉じたままジズの腕に掛けられて。

「どうするの、それ。」

相変わらず、雨足が弱まる気配は無い。

「ウォーカー。猫に変化する少女をご存知ですか?」

唐突に、問われる。

「あぁ、”おんなのこ”、だっけ?」
「えぇ。」

ジズはおもむろに、外套のポケットから
懐中時計を取り出した。

「少し、急ぎましょう。」

何時もながら、少々理解に悩む行動を起こすジズ。
一体何を急ぐのだろう。
そもそも、散歩に目的というのはあるのだろうか。
疑問符を浮かべる僕に、ジズは微笑む。

「生きているものは皆、風邪を引きますから。」

分かったような、分からないような、居心地の悪い感覚。

「何か良く分からないんだけど?」

くすくす。
ジズは苦笑する。

「どうせ一緒に行くのでしょう?」
「うん。」
「今教えるほどたいしたことではありませんから。」
「・・・・。」

上手くかわされた。
どうも、僕は遊ばれている気がする。

「ね、ジズ。僕のこと何だと思ってるわけ?」
「大切な人だと、思っていますよ。」
「ホントに?」
「別に、単に玩具として好き、
とか云うわけではありませんからご心配なく。」

まだ疑いの目を向ける僕をよそに、
ジズは足を止める。

「いました。」

ジズの視線の先には、一匹の猫。
道の端に、ちょこんと座っていた。
紺色の体毛はだいぶ雨を吸い込んでいる。

「風邪、ひきますよ。」

ジズが、声を掛ける。
猫は黙ってこちらを見ている。

「傘、持って来ましたから。」

猫は無反応。
と、その次の瞬間。
猫の体がぐにゃりと歪み、伸びて、
幼い少女の姿になった。

「きちんと、体を温めてくださいね。
でないとまた風邪をひきますから。」

また、ということは以前にも風邪をひいたのだろうか。

「・・・・・」

少女は俯きながら、無言で傘を受け取った。

「雨の日は、余り外出はなさらないで下さい。」

こくん、と小さく頷き、少女は背を向けて歩いていった。








「だから、傘もう一つ持ってきたんだ。」
「えぇ、以前偶然にお会いした時は、傘一本しかなくて。」
「それで、君はずぶ濡れで帰ってきた、と。」
「良いんです。私は風邪などひきませんから。」

たまには幽霊の体も役に立つんです。
ジズは微笑んでそう云った。

「それにしても、何で彼女が外にいるって分かったの?」
「幽霊の勘です。」
「嘘っぽいなぁ。」


そうやって二人でくすくす笑いながら、
雨の帰路を歩いた。











fin.